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カレルの心臓からiPS細胞まで(2)2015年07月19日 17時25分01秒

試験管の中の世界におけるガンには3つの条件がある。
1 ヌードマウスに移植すると腫瘍を造ること。
2 接触阻害が起きない。シャーレの中で盛り上がって増殖する。
3 足場に依存しない。培養液中で浮遊しながら増殖する。

HeLaはこの3つをすべて満たす。一方で、Veroはこれらのすべてを満たさない。
つまりVeroは「不死化」しているが「ガン」ではない。
では「不死化」とはなんだろうか?

ヘイフリックの限界を精密に見ていくともう少し細かい生命の限界が見て取れる。
普通の細胞は50回前後の細胞分裂を経て、増殖が止まる。しかし死ぬ訳ではない。これを「老化」と呼ぶ。
根気よく培養を続けると、細胞はあと10から20回分裂できることがある。これを「寿命の延長」と呼ぶ。しかしそれ以上は無理だ。細胞は増殖できない状態に陥る。これを「クライシス」と呼ぶ。クライシスの後には破局が待っている。

老化の段階において細胞は強いストレスを受ける。この時に誘導されるのが、二つのがん抑制遺伝子である。
家族性(遺伝性)網膜芽腫からクローニングされたRbと、SV40で形質転換したガン細胞から分離されたp53である。

1つの細胞が2つに分裂する時、細胞周期が進行する。
これを制御するのがRbである。

「サイクリン依存性キナーゼ・阻害酵素」は、「サイクリン」と「サイクリン依存性キナーゼ」の結合体を抑制する。「サイクリン」と「サイクリン依存性キナーゼ」の結合体は、Rbを活性化する。活性化したRbは、E2Fを放出し、E2Fは細胞周期を回す。

従って、Rbが壊れてしまうと細胞周期のコントロールが無くなる。つまり、「不死」になる。
「サイクリン依存性キナーゼ・阻害酵素」が無くなると、Rbをコントロールできなくなり、「不死」になる。

p53も細胞周期に関係する。正常なp53は、「サイクリン依存性キナーゼ・阻害酵素」を作る。また、DNAを修復したり、修復できない場合は、アポトーシスを起こして細胞を殺す。
つまり、p53が壊れてしまうとサイクリン依存性キナーゼ・阻害酵素」を作れなくなり、「不死」になる。

「老化」というのは、Rbとp53がきちんと働いている状態である。「寿命の延長」というのは、Rbとp53の働きが低下している状態である。

「クライシス」とは何だろうか?
それは染色体末端の反復配列テロメアが削れてしまった状態である。テロメアとは靴紐がほどけないようにするAglets・アグレットのようなものだ。TTTAGGという6塩基の配列が、生まれた時には数千個連なっている。これは細胞分裂のたびに、50〜100個くらいずつ失われていく。
テロメアが無くなれば、染色体の断端は剥き出しになる。そうなると染色体同士が接着し、細胞分裂の時に染色体は引きちぎられる。染色体のカタストロフィー(破局)である。

この「クライシス」を乗り越える方法は一つしかない。それはテロメラーゼという酵素を活性化して、短くなったテロメアを再度伸ばすことだ。
もしテロメアが再延長すれば、細胞は「不死化」する。

Vero細胞の全塩基配列が2014年になって解読された。29億7000万塩基対の中に、25877個の遺伝子が同定された。その結果、12番染色体に900万塩基対の遺伝子欠失が見つかった。この遺伝子領域にはインターフェロンが含まれている。Veroにはインターフェロン産生能がないため、ウイルスの増殖を抑制できない。だからいろいろなウイルスに感染するのだ。
そしてこの染色体領域には、「サイクリン依存性キナーゼ・阻害酵素」も含まれている。だからVeroには、「サイクリン依存性キナーゼ・阻害酵素」が欠失している。それゆえ、Veroは不死化しているのだ。

この900万塩基対を含む5900万塩基対には、一塩基多様が見られない。つまりヘテロ接合を失っている。片方の染色体に欠失が発生し、相同染色体にも同じ変化が起きたということである。
そして Veroではテロメラーゼが活性化していることも知られている。
これが、Veroが不死化した理由だ。

では、HeLaはどうだろうか?
HeLaにはヒトパピローマウイルス18型(HPV18)が、宿主染色体8番に組み込まれている。HPVの初期遺伝子は7つ(E1〜E7)、後期遺伝子は2つ(L1, L2)あるが、癌化に必要なのは、E6, E7である。実際、HeLaにはE6とE7が何コピーもオニオン・スキン型に増幅して挿入されている。
E6の働きはp53を崩壊させることである。
E7の働きはRbを不活化することである。
また、E6はテロメラーゼを活性化する。
これが、HeLaが不死化した理由だ。

つまり「不死化」への道には2つのステップがある。
1段階目は、「老化」であり「ヘイフリックの限界」であり、「Mortality Stage 1(死の第1段階)」である。
2段階目は、「クライシス」であり、「Mortality Stage 2(死の第2段階)」である。

HeLaは不死化しているだけでなく、癌化もしている。その最大の理由は、HPVが染色体8番、つまり、がん遺伝子c-mycのすぐ上流に組み込まれ、c-mycを活性化しているからである。

VeroもHeLaも不死化しているが、ガンであるか否かの違いは、がん遺伝子が働いているかどうかの違いである。

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