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医学の歩みとは?2013年04月26日 23時22分17秒

医学の歴史に関して何冊かの本を読んでいたら、医学の進歩とは実に鈍いものだと気付きました。

大昔の医学の人と言えば、皆さんはヒポクラテスを思い浮かべるのではないでしょうか?
はい、古代ギリシャの偉人ですよね。
ではその次に登場する人となると・・・・。
それはイエス・キリストという意見もあるでしょう。
ですが、ここではガレノスという人物の名前を挙げておきます。
ヒポクラテスから600年も経っているのですね。

ガレノスは人間の循環器について考察を加えましたが、もちろん現代の医学から見ると間違いが多い。
しかし医学は解剖学からスタートしたということがよく分かります。

ところが医学はこの先、全然進歩しなかった。
なぜでしょうか?
それはヨーロッパ社会がキリスト教に支配され、教会の威光が人々の考え方や学問のあり方を規定したからでしょう。
医学は1500年以上も進歩を止めていた印象があります。

一方で、物理学は着々と進んでいたのでは?
ぼくは専門家ではないのでよく知りませんが、ニュートンが活躍したのが17世紀。
mα=F ですね。
同じ時代の医学と言えば、フックの顕微鏡があります。
ニュートンが思索を深めることができた理由に、ロンドンでのペストの流行があります。
彼は田舎に避難していたんです。
で、フックが顕微鏡でペスト菌を発見したかと言うと、まだ全然そんな時代ではありません。
ノミとかを観察して訳です。
はじめて「Cell=細胞」という概念を作ったのです。

17〜18世紀にかけて医学はマクロとミクロの方向に別れて進んだように思われます。
マクロとは解剖学。
正しい解剖を理解するためには同時に生理学も必要になります。
解剖学と生理学が正しく理解できれば外科学が誕生します。
杉田玄白の「解体新書」は1774年です。

で、一方のミクロとは細菌学。
疫病の原因究明と、それに対する治療ですね。

ノーベル賞は1901年に始まりましたが、この19世紀と20世紀の狭間には、細菌学の進歩とレントゲンの発見がありました。
つまり結核を診断できるようになった訳です。
(菌が同定できて、肺のレントゲンが撮影されるようになったから)

1901年から医学はようやく前進したように見えます。
細菌学は、より小さい微生物にターゲットを変えます。
ウイルスですね。
ウイルスが形として捉えられた(結晶化された)のが、1935年ですから、ついこの間のことです。

ウイルスとは、蛋白と核酸でできた「生物と無生物の間」の存在ですから、ウイルス学者はこの核酸(DNAとRNA)の研究に進むんですね。
同時に疫病を防ぐためにワクチンの開発もおこなった。
ポリオウイルスがコントロールされ、天然痘が絶滅したのは、ウイルス学の輝かしい業績です。
一通りワクチンの開発が終了すると、ウイルス学者はやることがなくなってしまったのです。

そこで、ニクソンの「がんとの闘い」です。
がん研究にウイルス学者が大挙してなだれ込んできたのです。
彼らは、がんを分子生物学で理解しようとしました。
ワトソンとクリックの2重らせんの発見(1953年)以来、分子生物学という新しい道具は科学の姿を変えました。

利根川進先生は(大胆に言えば)免疫学の素人でしたが、分子生物学という道具を持っていたため、「免疫の多様性」という100年間の謎を独力ですべて解明してしまいました。

動物のがんウイルスの研究をおこなったビショップとバーマスは、人のがんにとってきわめて重要な「プロトがん遺伝子」を発見しました。
1980年〜1990年代のサイエンスとは、がんの研究であり、分子生物学のさらなる発展だったと思います。

生活習慣病の解明などは全然進んでいなかったのでは?

キャリー・マリスのPCRという大発見によって、分子生物学は誰にでも扱える学問になりました。
この「一般化された分子生物学」と「再生医学」の出会いが iPS 細胞です。
つまりは、コッホとパスツールの細菌学は、iPS 細胞にまでつながっているとぼくは考えている訳です。

医学の爆発的な進歩は、まるでPCRでDNAが爆発的に増える様に似ています。
内科学には、未解明の部分(アルツハイマー病など)が多数ありますので、今後も分子生物学を利用して発展していくでしょう。

だけど、外科学というのは、「解剖学」と「生理学」が確立した時点でほとんどゴールだったのではないでしょうか?
外科医という存在は永久に必要ですが、研究課題はあまり残っていないかもしれません。

数学とか、物理学、化学はどうなんでしょうか?
人間の「知りたいという欲に答える」部分ではまだまだやるべきことは多いと思いますが、人類の福祉や幸福、繁栄という観点からするとかなりの部分が解決されたのではないかと門外漢のぼくは考えます。

医学も「100歳まで生きる」とか、「90歳過ぎても現役」といったおかしな幻影は捨てて、地に足の付いた研究へ進んだ方がいいでしょう。