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「カウントダウン・メルトダウン 上 」(文藝春秋)船橋 洋一2013年04月01日 18時31分09秒

カウントダウン・メルトダウン
福島原発事故の「民間事故調」を指揮した船橋洋一さんによる作品です。
朝日新聞の主筆を務めた方ですから、「評論的」に「俯瞰的」に、あるいは「歴史的」に事故を描くのかと勝手に思っていました。
読んでみると、「記者の目」で書かれています。

いったいどうやって書いたのだろうと思える程、たくさんの人にインタビューして言葉を集めています。
民間事故調の調査の中で、スタッフの方々が集めてきた証言も多数あるのかもしれません。
船橋さんは、アンカーマンのような役目を果たし、そして代表者として筆を執ったのでしょうか?
この本に載らなかった証言も相当あるでしょう。

何を残し、何を書くか。
歴史に刻むということを考えれば、関係するすべてを書き込むべきでしょうが、そうすると本としての完成度は落ちます。
「 」付きの証言でも「あのう・・・」とかといった無意味な言葉の断片も見受けられます。
ですがもちろん、船橋さんは、そういった言葉に意味を見いだして残したのでしょう。
そういう難しい選択を重ねながら本を作っていったのだと推測します。

原発事故に関しては当事者である政治家や、「メルトダウン」の大鹿靖明さんが詳細に語っているので、びっくりするような話がこの本で(まだ上巻だけですが)出てきた訳ではありません。
ですが、「自衛隊」と「警察」と「消防」の関係、あるいは、指揮系統の話は大変興味深く読みました。
国家が存亡の危機を迎えた時、自分の命を投げだしてもいいと考える人間、あるいは組織の長というのは、そうはいないのだと暗い気持ちになりました。
その中で自衛隊だけは違うんですね。
彼らは内閣総理大臣を親分と決めていますから、「意見を聞かないでくれ、命令してくれ!」というスタンスなんですね。

ぼくは昔から「軍隊」は政府を裏切ると思っていました。
クーデターを起こすのは軍ですから。
一方、警察というのは、政権に寄り添って絶対に裏切らないと信じていました。
ですがどうもそうではない。
警察のトップは、警察庁長官であって、国家公安委員長ではないんですね。
彼らは独立した組織なのかもしれません。

本書を読むにあたって一番ダメな読み方は、「もし、総理大臣が菅さんではなくて、云々」と仮定することだと思います。
船橋さんもそういうことを書きたかったのではないでしょう。
そんなことを仮定しても何の意味もありません。

原発政策の成れの果てとして(あるいは資本主義の成れの果てとして)、カタストロフィーのような断末魔の前に、人間は何もできないということをこの本は描いているのだと思います。
つまり、やはり歴史書なんだと感じます。

本書は、今年度の「大宅壮一ノンフィクション賞」の候補作なんですね。
すべての候補作を読んだ訳ではありませんが、受賞はこの作品で間違いなさそうです。