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「マーゲン、切る?」2012年11月27日 23時06分04秒

次女(小学4年)が食事をする時に、前髪が料理に付きそうになったので、家内が「前髪、切ろうか?」と訊きました。
すると次女が(冗談で)「え?マーゲン、切る?」と返しました。

マーゲンというのはドイツ語で、「Magen」と書きます。
「胃」のことです。
外科医の世界では、「胃の部分切除」のことをマーゲンと呼びます。
ちなみに「胃の全摘出術」は、「トタール」。これもドイツ語。
英語ならば「Total」ということです。

外科医というのは、マーゲンができて一人前。
いや、必要最低限というところでしょう。
マーゲンが切れなければ、外科医とは言えません。

「小児外科医」という仕事は「外科医」なのか、「小児医療者」なのか、昔から議論がありましたが、現在では「外科医の一種」という定義に収まっています。
なぜならな、「専門医」の資格を取るにあたって、まずは「一般外科=大人の外科」の修行を積むことが義務づけられいるからです。

だから大人のマーゲンを切った経験のない小児外科医は日本に存在しないでしょう。
いや、一人だけいるぞ。
それはぼくだ。

この専門医の制度は、ぼくの一学年下から始まった。
そしてぼくより上の世代というのは、「成人外科医」から「小児外科医」に転向してきた人ばかりなんです。

だからぼくは「子どもの手術しかしたことのない小児外科医」ということになります。
こういう医者は日本に、いや、世界に一人でしょう。
おまけに子どもに骨髄移植をした経験もあるという、本当に世界で一人の医者だ。

だけどさらに話が面倒なことは、今や開業して「手術」をしなくなったこと。
だからここ数年は、「オレはもう小児外科医じゃない。ただの医者だ」と名乗っていました。

ところがさらに面倒なのは、講談社さんとの付き合いの中で、他業種の人によく会うようになった。
取材もするし。
そうすると、やはり「小児外科医」という肩書きは、相手にとって分かりやすいのですね。
「開業医です。オリジンは大学の小児外科医」というと、だいたい分かってもらえます。

自分の医者人生で一度くらいマーゲンを切りたかったかと聞かれると、答えは「まったく思わない」という感じですね。
大人の手術にはまったく魅力を覚えません。

ところで、なぜ、次女がマーゲンという言葉を知っているかと言うと、我が家では、ぼくと家内の間でこういう医学ドイツ語が日常的に飛び交っているからです。
「ちょっとマーゲン、痛いなあ」とか。
「それはシュルンペルなあ」とか。
「少しクニッケンしてるぞ」とか。

ま、ちょっと変ですよね。