「ゆりかごの死―乳幼児突然死症候群(SIDS)の光と影」(新潮社)阿部 寿美代2012年10月16日 22時19分22秒

ゆりかごの死―乳幼児突然死症候群(SIDS)の光と影
SIDSをテーマにした大宅壮一受賞作です。
面白くてすぐに読み切ってしまいました。
だけど例によってノンフィクションの「視点」に不満があります。

「○○医師は、その時○○と考えた」
というような、物語形式、三人称形式、あるいは「神の視点」です。
特にSIDS研究黎明期の記述では、たくさんの医師が登場して、その人たちがドラマのように会話を交わしたり、心情を吐露したりします。
これはちょっと話を作っているのではないかと疑ってしまいます。

また昔の話のエピソード主義も頂けない。
例によって「名医」が登場し、その医者が赤ちゃんを見詰めるとピタっと泣き止んでしまう・・・・。
こういう「講談」はほとんど100%作り話です。
そんな医者はこの世にはいません。

筆者はNHKの記者なんだから、単純に自分が取材したことを丁寧に解説していけばもっと良い本ができたと思います。
ものすごくよく調べていると思いますが、本としての完成度を考えると不要だった部分もずいぶんあったように思います。

だけど、まあ、大マスコミの記者さんは、「取材」という点においては、フリーの書き手に比べてはるかに有利ですよね。
看板があるから取材に応じてもらえる。
ぼくが女子医大の仁志田先生に取材をお願いしたって、まず、断られると思います。
え? ひがみ?
はい、ひがみです。
正直に言って羨ましいですよ。

大宅賞を受賞したのだから傑作なのでしょうが、読んでいてもどかしい部分もありました。
1997年当時の感覚としては、未知で新しい世界だったのかな。

本の最後の方に松戸市立病院の長谷川先生が出てきてびっくり。
一緒に働いた先生です。
だけどこの部分はあまりに専門的すぎて、一般の人には理解が難しいと思います。