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「忘れられた日本人」 (岩波文庫) 宮本 常一2012年03月07日 19時26分59秒

忘れられた日本人
いつか読もうと思っていましたが、今回、ふと気が向いて購入しました。
宮本先生が、昭和の初期に日本の田舎を巡って老人たちに昔話を聞いて本にしたものです。

学術書とも言えるし、ルポルタージュ形式のノンフィクション文学とも言えます。
読んで頂ければわかりますが、大変面白い。

なぜ面白いのでしょうか?
宮本先生の筆力? いえ、そうではないような気がします。
文章はある意味たんたんと書き進められ、取材ノートをそのまま起こしたような章もあります。

この本の中で一番面白いのは、多くの人が指摘するように「土佐源氏」という章です。
この章は、引き込まれるようにどんどん読んでしまいます。
その理由を考えてみると、、、、
1 下ネタだから
2 「普通ではない」世界が広がっているから
3 「普通ではない」姿、それがすなわち、その当時の日本だったということが分かるから

こんなところでしょう。

明治から昭和にかけての日本と、現在の日本では文化が大きく様変わりしていること、そして、東京といわゆる田舎では文化に隔たりがあること、そういうことがこの本を読むとよく見えるんですね。
宮本先生がそういったことを意識して書いたかは全然別ですが、時間と空間の隔たりの中に日本文化の変化がくっきりと浮かんでくるんですね。

「下ネタ」だからと簡単に書きましたが、あの時代に人口が爆発的に増えたこと、親が今の時代のように子どもを大事に育てなかったことは、「子孫を残す」ことのもつ意味が時代と共に変わったからだと思います。

ノンフィクション文学っていうのは、必ずしも有名人を取材しなくても良質な作品が書けるんです。
市井に生きる無名の人たちにも、一人一人に人生のドラマがあります。
どんな人にも必ずあります。一人に一つのドラマです。

長く生きればそのドラマはより雄大になりますから、老人に話を聞く方が、若者に聞くより深いものが得られるでしょう。
本書を読んで、友人の藤原章生君が書いた「絵はがきにされた少年」(集英社・開高健賞受賞作)を思い出しました。

「忘れられた日本人」も「絵はがきにされた少年」も、時代と共に、その本の価値が増していくのでしょう。